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ウェット加工、セミドライ加工、ドライ加工の違い

切削加工時に切削油剤を循環使用する加工をウェット加工、切削油剤を全く使用しない場合をドライ加工、切削油剤をごく微量をミスト状にして加工部に使用するが加工後に加工物がほぼ乾燥しているような加工をセミドライ加工といいます。加工法自体は時代の生産環境や工具、刃具の発達過程で変化してきましたが、現在どんな加工法を選ぶかは使用する工具刃具、加工対象材質や材料特性、加工の種類で決まります。以下に各加工法について述べます。

ドライ加工
切削油剤を全く使用しない加工方法をドライ加工といいます。刃先を冷却しないので加工と共に刃先部は高温になりますが、これが可能になった背景には超硬工具やセラミック工具等高温強度の高い工具が開発されたことで可能になりました。ただドライ加工の加工対象は鋳鉄や強度の低いアルミニウム、銅合金等に限られています。鋳鉄は強度が低く材料中に摩擦抵抗を下げる黒鉛(グラファイト)を含んでいるために切削時に摩擦熱による切刃周辺の温度が上がり難いために工具の硬度が下がらずに加工ができます。アルミニウムの場合も強度が鋼ほど高くない事とアルミニウムは熱伝導率が高いので切削時に切り刃に発生した熱が周囲に吸収伝播し刃先が高温になり難いため、切り刃の硬度が下がらずに加工が継続できることによります。ただアルミニウムの場合切削速度を上げると溶融点が低いため溶着物が刃先に着くいわゆる構成刃先が発生し、加工面の面粗さを低下させたり工具の早期摩耗を生じることがあります。そうなると切削条件を変更しドライ加工から切削油剤を使用する加工になります。ドライ加工は切削油剤を使用しないのでワークに付着した油剤を洗浄する工程を省くことが可能になるという利点もあります。

ウェット加工
ウェット加工は切削油剤を使用した現在最も普及している加工法です。使用する切削油剤には油性の油性切削油剤と水で5%程に薄めて使用する水溶性切削油剤があります。油性切削油剤より水溶性切削油剤の方が冷却性は高く切削速度を上げられ生産性向上に有効なため、当初は多かった油性切削油剤が徐々に水溶性切削油剤に取って代わられ、工業界では現在水溶性切削油剤の使用量が過半数を超えています。加工対象は通常の鋼材部品や金型加工等で高硬度材や難削材などほとんどの部品がカバーされています。
切削油剤の機能としては1次機能(切削性)には潤滑性、冷却性、刃先部凝着防止機能が挙げられ2次機能(作業性)には洗浄機能、防錆、防腐、泡立防止等が有ります。(詳細;切削油.com)ウェット加工はこれらの機能はすべて満足しているクーラントと言えます。
ただし約30年前頃から世界の環境汚染拡大や地球温暖化に関して警鐘を鳴らし対応を訴える国際会議が多数開催されるようになりました。特に産業界、工業界にはこれまでの生産性中心の考え方や開発に対する反省や低環境負荷な生産方法を開発する動きが高まってきました。

セミドライ加工
セミドライ加工はウェット加工の生産性をもっと低環境負荷で実現できないかということで、1990年頃から研究開発が進められました。

①加工時刃先部の発生熱は全発生熱のたった1%以下
 切削加工では加工エネルギーの97%程が熱エネルギーに変わりますが、切屑にはせん断変形により発生熱全体の80~90%が生じます。一方切削工具にはすくい面で加工物との摩擦により5~10%が刃先と工具と被削材に発生しますが、ウェット加工の場合はこれ等が冷却され工具刃先の高温軟化を防ぐので連続切削加工ができます。つまりウェット加工の場合発生した加工熱はほとんど切屑が持っていき、特に重要な刃先部の冷却には全体発熱量の1%以下程度しか寄与していないことがわかりました。そこで絞ったミスト状油剤を刃先部に掛けて刃部の潤滑と僅かな冷却のみで加工できないかと考えて研究開発されたのがセミドライ加工です。

②ミストが刃先冷却に効果がある理由
 普通に考えると流体たっぷりのウェット加工の方がミストより冷却性が高そうに考えられますが、実は切削加工の条件下ではミストの噴射冷却が優位に働く条件があります。旋盤加工時の刃先を考えると加工面をすくって削るいわゆる『すくい面』と、加工された加工面が工具から離れていく『にげ面』があります。加工品と工具間は切削時の切屑のせん断変形熱+摩擦熱で切屑は高温になりますが『すくい面』は削られた熱い切屑が押し付けられるのでこの部分にはほとんど隙間が生じず冷却できません。一方『にげ面』には工具と加工品の間には非常に僅かな隙間が生じます。クーラントは液相なので表面張力もあり、刃先から高速に加工面が後方に移動するため刃先部には液相界面が近づけず、かつ加熱した工具表面を冷却するので工具が冷やされクーラントが効率良く沸騰できません。一方ミスト冷却は冷却が弱い分、隙間の工具表面温度も上がるので油滴(10~100μ程度)が沸騰し、ミストは気体として(動粘性係数が高いことで)隙間の奧まで侵入できるので刃先部の潤滑と少しの冷却が可能になります。
ただオイルタイプのミストの場合はやはり油自体の冷却性能が低いので発熱量の少ない細径ドリルや、材料の熱伝達率の高い非鉄金属の加工、加工体積が少ないニアネット品の仕上げ加工などが中心ですが、潤滑が良好で仕上がりも滑らかになり工具寿命も延びます。

③水溶性ミストの高い冷却性の理由
 そこでこのセミドライ加工の低い冷却性を改善してウェット加工並みの加工能率を狙った加工法が水溶性ミストをベースとしたセミドライ加工です。水溶性ミストも②で述べた油性ミストと同じで、流体クーラントでは侵入できない逃げ面と加工面の狭い隙間に気体として侵入が可能です。ただ水溶性ミストの約95%は水ですので冷却能が油性とは全く異なります。つまり水の比熱は油性の倍ですので同じ重量で油の倍の冷却能が有りますし更に水は蒸発する際に大きな蒸発熱(539cal/g)を奪うので、ほぼ蒸発しない油性とは異なり冷却能が大幅に上がります。水溶性ミストはこれまでの油性ミストでは不可能だった大物部品の太いドリル加工の高速化等が可能となりウェット加工からセミドライ加工化への変更が可能になります。更に刃先の冷却が良く刃先摩耗も減少するので一般に工具寿命も延びることになります。

④洗浄効果は無いが工程省略が可能
 ただセミドライ加工にはウェット加工の持つ大量のクーラントで切屑を運ぶ洗浄効果は有りません。したがってエアノズルで周囲の切屑を飛ばす等して切屑を集める必要があります。ただミストは数㏄~10cc/分と微小量なので熱を持っている切屑や加工物に付着しても瞬時に揮発するのでドライ状態です。つまりウェット加工のようにワークや切屑の付着クーラントを後洗浄する必要は無くなるので洗浄工程は省略できることになります。
特に大物部品の加工の場合はウェット加工では必要となる大型機械周囲へのスプラッシュガードが不要になるためセッティング等の部品扱いも容易になり、ガードが無いので工場内周囲への視認性も大幅に向上するので安全性も増すことができ、洗浄経費等の大幅カットと安全を同時に得ることが可能になります。