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切削油の役割

前述の当初の刷毛による加工部への給油にあるように、加工部の潤滑作用は切削油の基本機能として重要で、特に図1の加工部位Q部の素材と工具間に発生する大きな摩擦で生じる工具摩耗は、図中AO部(すくい面側)に生じるクレーター摩耗、OB部(逃げ面側)に生じるフランク摩耗となって工具寿命や製品精度に影響を及ぼします。
したがって摩耗を減らす意味で切削油の潤滑機能は重要ですし、加工部の温度を下げて刃先部の強度を上げて摩耗量を減らすことは大事です。
また、加工した切屑を加工部から除去する洗浄作用も重要な機能です。


【図1 切削加工時の発熱】

以下に、順を追ってこれらの作用を述べていきます。

a潤滑作用
切削油の潤滑作用は加工時の摩擦熱による工具と素材の凝着を防ぐ最重要な機能と言えます。
潤滑作用がいかにして切削負荷を低減するかについて説明した例が図2になります。


図2 加工法による切屑とすくい面の接触長さ

図2は切削油を使用しないドライ加工と切削油を使用した場合の切屑の形の差と、それによるすくい面と切屑の接触の長さを比較した図です。
一般に切屑と切削工具すくい面間の摩擦係数が小さいほど、つまり切屑とすくい面の間に潤滑油がある場合は切削切屑が(b)のように小さく丸くなることが分かっています。
図2を見ると、ドライ加工による切屑と工具すくい面の接触長さは長くなりますが、切削油を使用した加工の場合は、摩擦係数が小さいので接触長さは短くなっています。
切削油の使用により切屑が小さくなって扱いやすくなり、接触長さも短くなるので切削負荷が小さくなり、その結果として工具の切れ味が良くなります。

b 冷却作用
切削時には加工物のせん断変形による発熱や工具のすくい面、逃げ面と素材との摩擦により発熱が起こり切削仕事に要するエネルギーの97%が熱に変わります。その他1~3%のエネルギーは被削材や切屑の残留応力として残ります。
発生した熱のほとんどは切屑が持ち去りますが、5~10%は工具に10~20%は加工物に残ると言われています。
工具に残っている熱は工具の刃先を高温にして刃先部分の軟化を来し工具摩耗を促進します。また、材料によっては刃先に素材の溶着金属が堆積するいわゆる構成刃先を生成したり、それが脱落したりすることで、仕上げ面粗さを悪化させたり加工品の精度を落としたりします。
切削油にはこの発熱の抑制や工具、加工物に発生した発熱を除去するといった冷却作用があります。この冷却により加工による焼けなども防ぐことができます。

c 洗浄作用
加工により生成する切屑が加工部位から排出されずに堆積すると、工具と被加工物の間に噛みこまれ工具に損傷を与えることや、被加工物に傷をつけて加工精度の低下を引き起こすことがあります。切削油を加工部に供給することで切屑を加工工具の周囲から洗い流すことになり、工具の損傷や加工傷の問題を防ぐ事ができます。

d その他の作用
切削油の主な作用は前述の潤滑、冷却、洗浄作用の3つですが、対象となる加工品の生産量の急速拡大に伴う基本的な加工効率の見直し、加工素材の高強度化、鋼以外の新素材採用および軽量化と高精度の要求に伴い工作機械や工具は様々な技術的な工夫を講じながらこれらのニーズに応えて進化を続けています。
切削油はそれらの工具と素材のインターフェースとして、その都度新しく機能を付加してユーザーのニーズに応えてきています。
その他の作用を含めて、切削油の使用目的とその作用機構の関係を示したのが図3です。
前述の潤滑作用と冷却作用、洗浄作用に加えて、下線の浸透作用と抗溶着作用、防錆作用が加わりました。

【図3 切削油の使用目的と作用機構の関係】

◆浸透作用
浸透に関しては図2を見ると分かるように、すくい面、逃げ面ともに摩擦熱の発生個所は非常に狭い隙間の先にあり、切削液の浸透がいかに困難な課題かということがよくわかります。

実際の加工部位の冷却は3次元的に可能なので手前からの冷却も可能ですが、発熱部位はすくい面と逃げ面の微小隙間の奧であり、切削油がどこまで浸透できるかという点は冷却には非常に重要です。
表面張力や接触角の小さい切削油ほど、浸透作用が大きくなり工具や素材の表面に広がります。また切削油の粘度が小さいと、浸透する速度は早く広がります。

◆抗溶着作用
切削時に工具の刃先に加工物の一部が溶着して蓄積硬化し刃先の一部のような働きをすることがあり、これを「構成刃先」と呼びます。一般に、アルミニウムや真鍮(黄銅)のような比較的柔らかい金属を加工する場合に生じる現象です。
この構成刃先は発生、成長、脱落を繰り返すので加工物の表面が荒れる原因になり得ます。これを防ぐために、切削油には工具の刃先表面に焼き付きし難い反応膜を生成する添加剤を加えることで構成刃先の生成による問題を防いでいます。

◆防錆作用
切削や研削をした後の加工物の表面は「新生面」と言って非常に活性な表面になっているので、腐食やさび、変色が生じやすい状況にあります。切削油が文字通り多量の油分を含む不水溶性油剤では加工物に上記の新生面の課題はほとんど問題にはならなかったのですが、近年急増した水溶性切削油には加工物の防錆作用を考えた努力がなされています。
ただし、水溶性切削油は不水溶性油剤ほど防錆作用は強くないので、長期間の防錆が必要な場合や鋳鉄等錆びやすい材料の場合は防錆の手当てが必要です。また、水溶性切削油では加工品の表面ばかりでなく、特に工作機械の摺動面やベッド面等は防錆への注意や手当てが必要です。